コクリバ 【完】

「ん?モデルをお願いしたんだよ」

先輩は簡単に言ってしまった。
それがどんなに大変なことか気が付いてないんだ。
全女子を敵に回したかもしれない。
もう顔を上げていられない。

「市原君、人物描くの?」
一瞬の沈黙を破ったのはだれでもない谷口副部長。
背中に緊張が走る。

「うん」
柔らかく答える市原先輩。

やっぱりできません。
そう言おうとした時だった……

「でしょう!」

え?
顔を上げると谷口副部長が、目をキラキラさせている。

「ね?そうでしょう?やっぱり市原君は人物がいいと思ったの」

谷口先輩は自分のことのように嬉しそう。

肩より少し長めのまっすぐな黒髪をゆらして、私を見た谷口先輩の眼はやっぱりキラキラしていた。

「私も描かせてくれない?」

本気で言っているのだろうか?
谷口先輩は意外と天然なのかもしれない…
そう思っていたら、谷口先輩の後ろから柔らかい声が聞こえた。

「だめ。俺のだから」

別にそういう意味ではないって分かってるけど……
顔が真っ赤になってしまった。