コクリバ 【完】

そう言って吉岡は出て行った。

一人で見知らぬ部屋に取り残されて、現実感が全くない。


真っ赤な傘。

楽しそうな笑い声。

私の知らない世界の話。

全てが夢だったらいい

なのに、脳裏にリアルに甦って来る光景―――

高木先輩の新しい彼女


そういうことだったんだ
もう終わったって、そういうことだったんだ
もう私じゃない人がいるってことだったんだ

もう、あの声が私の名前を優しく呼ぶことも、
あの大きな手が私に触れることも、
あの左頬だけで私に笑いかけることも、

二度とないってことだったんだ。

胸がえぐられるように痛い……


今頃、高木先輩は赤い傘の中で橘先輩と笑っているんだろうか……
あの大きな手が、橘先輩の左の耳たぶを触っているのかもしれない……

なんで?
高木先輩、なんで?


心変りが“よくある話”だと言ったのは誰?

例え、そうだとしても、この痛みを“よくある話”という言葉で片付けてほしくない。


バスタオルを強く引いて、声を殺して泣いた。

もう大丈夫。高木先輩のことなんて忘れた。
なんて言いながら、全然先輩のことを忘れられてないと痛感した。