コクリバ 【完】

美術室にはまだ誰も来ていなかった。

絢香は待ちきれないという様子で、
「何があったの?」
前のめり気味で聞いてくる。

報告しない訳にはいかないよね。

「実はね……」
ヒソヒソ話は聞く方も言う方も変なテンションになる。

吉岡に彼女がいると言われたことを話した途端、
「は?なにそれ。意味分かんないだけど」
目を吊り上げて怒る絢香。

それがちょっとだけ嬉しかった。

「…つらい?」
絢香が遠慮がちに聞いてくる。

「ううん」
不思議とそんな感情はなかった。
ただ、意味不明だった。

「私、吉岡のこと好きだったのかな?」
「は?奈々、あんたつらいの?」
「つらくはない。だから好きじゃなかったのかなー」
「あんたも意味分かんない。好きだったら彼女がいるって言われたらショックでしょ。って言うかそんなこと人に教えられること?」

思い出した。
彼女がいると言われた時は、確かにショックだった。
でもそのあと…

「好きじゃなかったんじゃない?」
私の思考を遮り、絢香が続ける。

「……」
「好きになりそうだったけど…って感じなんじゃない?」

絢香のそのはっきりと言える性格が羨ましい。
私もそうなりたい。

「私は…絢香が好き」
「きもー」
二人でゲラゲラ笑った。
それだけで救われた気がする。

「あ、それから市原先輩にモデル頼まれた」

「・・・・・・えーーーーー!」

今日、一番大きい絢香のリアクション。