自転車の前カゴには、びしょ濡れの白いビニール袋。
そんなところまで良く見える。
自転車がもうすぐ橋を渡り終える。

高木先輩の目的地は?
まさかここ?

私の心臓の動きはこれ以上ないというくらい早くなり、とっさに雑誌を開き読んでいる振りをした。
こっそり雑誌の上から覗いてみる。

自転車は橋を渡って、コンビニの前の駐車場をめがけて、向きを変える。

こっち来る。
さらに雑誌を目の高さに引き上げた。

自転車は駐車場に止められている白い車の後ろを通り、そのまま私の前を通り過ぎていった。
何事もなく。
こっちを見ることもなく、通り過ぎて行った。

肩から力が抜けていく。

気付かれなかったことが嬉しいのか、残念なのか。
もう良く解らない。

それからしばらく雑誌を見ていたけど、内容なんて頭に入ってこない。
どんなにおしゃれなページでも、考えるのはさっき見た光景。

高木先輩の雨に濡れた姿

気にしないようにと自分に言い聞かせて、他の考え事ができるようになる頃ようやくコンビニを出た。

家の玄関にはまだ兄の友達の靴があり、中からは楽しそうな笑い声がしてる。
でも玄関に出るときにはそこに無かった物が落ちている。

びしょ濡れになった白いビニール袋。

ドクンという音が聞こえた。

「お兄ちゃん。誰か来たの?」

「あ?奈々か?おかえり」
「おかえりー」
兄のものではない声も聞こえたけど、それはさっきの人たちの声ばかりで、もしかして…と思った低音の声は聞こえない。