「奈々。しっかりしなよ」
放課後、授業が終わるとすぐに逃げ込むようになっていた美術準備室に絢香が入ってきた。

誰とも会いたくない……と言うより、怖い

「……」

美術準備室の奥の狭いスペースに膝を抱えて座っている方が落ち着く。
廊下を歩けばみんなが見ているような気がするし、教室にいても誰かが噂しているような気がする。

保健室だって誰かがいるし、屋上だって逃げ場がない。
終わってすぐ帰ろうとしても、
「あいつが市原とヤった女だ」
「そんなに急いでどこに行くんだ?」
「他の奴とヤりに行くのか?」
「俺の相手もしてくれよ」
耳障りな嘲笑と罵声の餌食になる。

どこにいても辛いだけだった。
だから校舎に誰もいなくなるまで美術準備室にいて、ほとんどの生徒が帰ってから帰るようにしていた。

絢香とも、あまり話してなかった。

高木先輩の姿を探すこともできない……