「だから、その言い方だと、俺が漏らしたみたいだろう」
兄はこの話になるといつも機嫌が悪くなる。

「だよなー、それを言うなら゛漏らさせの緒方”になるよなー」

大学に入ってからの友達だろうか、聞き役の二人はまじめに答えてる。

あははは、とまた中山さんが豪快に笑って
「そんなことは、どっちだっていいんだよ」
「よくねぇよ」
「問題なのは、こいつがシスコンってことだ」
中山さんは言い切った。

実際、兄は私には厳しい。
携帯も持つのを反対しているのは兄だ。

それが私を守ることだと思っているのだろうか?

兄の行動は、幼い頃からの母の刷り込みだと思う。

妹の奈々を守るのは、兄である智之だ。
私たちはそう言われ続けて育った。

それは兄が幼稚園の時から始まったようで、
兄の幼稚園の行事に、母は私を連れて参加すると、赤ちゃんだった私に触ろうとした男の子がいたらしい。
それを見た兄がその子を突き飛ばしたと言うのだ。
「もう、お母さん、誤り倒したわよー
だけど智之は奈々を守ろうとしたのよねー」

母はその時のことをいつも嬉しそうに語る。

何度も聞かされてきたその話で、
兄は私を守らなくちゃいけない、と思い込まされたのではないだろうか。