次の日の日曜日は、朝から雨に降られ、何かしたいのに何もできずにうじうじと自分の部屋にいた。
早く梅雨が明けてほしい。

そんなことを考えながら思いだすのは唇の感触。
その時のことを思いだすと胸が疼く。

あれは事故だったことにしよう。
たまたまぶつかっただけで、ファーストキスはまだだって。

そうじゃないと振り回されてしまうようで怖くなる。


一人窓の外をぼんやりと見ていたら、バタバタと下の玄関の方から雑音が聞こえてきた。
そっとドアを開けて階下の様子を伺うと、兄の声が聞こえる。

「部屋とどっちがいい?」
「こっちでいいぞ」
「おばさんいないのか?」

兄と、何人かの男の人の声。
その中に聞き覚えのある声があったから、私は鏡を覗いて髪と服を軽く整えてから、下に降りていった。

「こんにちは」
小さい声で挨拶したのに、そこにいた4人の男の人、全員が一斉にこっちを向いた。
ちょっと引く。

一人は兄の智之
もう一人は兄の親友、中山さん。
他の二人は初めましての人。

「おう。いたのか」
兄が不機嫌そうに答える。

「奈々ちゃん、久しぶり~。可愛くなったな~」
兄よりも大きい中山さんがのしのしと近づいてくる。
それを阻むように兄が間に入り「お前一人か?」と聞いてきた。

後ろで中山さんが、他の二人にガードのポーズをとってみせている。

「見たか?緒方の妹には手出すなって、俺らが中学の頃から言われてることだよ。今だ健在だな」
中山さんが大きな声で言うと
「小学生の時からだ」
訂正する兄。

仲の良い二人だ。

「そうだった。漏らしの緒方だった」
中山さんが楽しそうに笑う。