「ところで五十嵐」
「はい」

木村課長が仕事モードに変わると、五十嵐もすぐにそれに応えた。
いつものチャライ雰囲気は女の子を相手にする時だけって訳ね。

「おまえ、B館の劇場使ってるだろ?」
「はい。来月からの舞台の打ち合わせで」
「駐車場とか使うか?」
「いえ。まだ使いません。舞台を組み始めると頻繁に使用すると思いますが」
「そうか……」

右手で額を抑える木村課長。
駐車場がどうかしたんだろうか。

「木村さん?」
五十嵐も心配したようだ。

「……」
何かを言いかけてやめた木村課長。

「どうしたんですか?」
私も聞いてみた。

木村課長は疲れた笑顔を私に向けて、
「いや、なんでもない。百瀬も連れて行こうかと思ってたけど、噂を肯定するみたいだから止めておくか」
無理に話を逸らされた。

それ以上聞いちゃいけないような、聞いても答えてくれなさそうな木村課長に何も言えなかった。

「百瀬。会議室の整理はその辺にして、A館の催事の手伝い行ってくれ。五十嵐、百瀬を送ってやれ」
木村課長が伝票を持って立ち上がる。

「課長はどこにいらっしゃるんですか?」

思わず課長のジャケットを握ってしまった。
その手を木村課長が見るから、恥ずかしくなる。

「横浜だよ。横浜店の様子を偵察してくる」

疲れた顔で笑った木村課長が、私の頭に軽く触れて、課長はそのままカフェを出て行ってしまった。