「ちょ、ちょっと!」


しかし何を言っても、その人は反応しない。

それどころか「黙ってろ」とまで言った。

人混みがだいぶ減ったところでその人はリルの腕を解放した。


「ここまでくれば大丈夫だろう」


ふー、と溜息をついたその人を見て、ようやくリルは口を開いた。


「あ、あの、私になにか…?」

するとその人は返事もせずに言った。


「お前、シャルクラーハの人間ではないな。観光客か?」


睨みつける様な見透かすように冷たい目でリルをじっと見た。

「そうです」と答えると溜息を吐いて怪訝そうな顔をする。


「連れはどうした、迷子か?」


「一人旅をしているんです。迷子なんかじゃありません!」


宣言するようにそう答えるとその人は「お前みたいな娘が一人旅、ね」とわざとらしく溜め息を吐く。


「まあ観光を楽しむのもいいが、シャルクラーハの商人には気を付けろ。王都一の商業の町で商人として生き抜く彼らは、どんなに小さい店や露店であろうとも皆が商売の天才だ」


「特にお前のような物知らずな田舎者は狙われやすい」と彼はリルを指さした。


「彼らにとって観光客は恰好の獲物。下手をすれば身ぐるみはがされるまで買わされるぞ」


彼は溜息を吐いて険しい表情をしているが、どうにもさっきのおばあちゃんやお兄さんがそんなにひどい人のようには見えなくて「そうでしょうか」と反論した。


「彼らはそんなにひどい人には見えません」


気持ちのいい笑顔を見せてくれる人達ばかりだった。

彼らを疑うのはどうにも罪悪感に駆られてしまう。


すると彼は思いっきり不機嫌な顔をして「だから常識しらずの娘は」と言った。