店は燃えて崩れるのは時間の問題だった。それを知った上で自分を優先的に逃がしてくれたのではないだろうか？

リルが振り返らずにあの場から逃げられるように、わざとあんな言葉を投げかけたのではないだろうか？

確かめようと思ってシオンに声を掛けようとした、その時だった。

リルが声をかけるより早く、テオがシオンに言った。


「シオン様！」


テオは慌てた様子でシオンに駆け寄る。

「テオ、来ていたか」

「シオン様、ご無事ですか？お怪我は？」

心配そうなテオの様子に飽き飽きだと言わんばかりにシオンは溜め息を吐きながら「無事だ」と言った。

「あれくらいのこと、どうってこともない。それより俺のことで一般の民に説教垂れるのはやめてくれ。しかもあんな小娘になど、呆れて物も言えん」

テオは決して納得してはいない様子で「すみません」と謝った。

テオにとってシオンは何にも代えがたい大切な存在なのだろう。失っては困る存在、失わせてはならない存在。そう、それはまるで家族にも似た。

「火事の鎮火作業と怪我人の手当をお前が指揮しろ。頼むぞ」

テオは返事をすると早速周りの騎士団達に指示を出した。

リルはそれを不思議に思って見つめていた。