花舞う街のリトル・クラウン

「シオン…どうしてあなたがここに?」

予想もしていなかった人物の登場に驚きを隠せないでいると、シオンは「説明は後だ」と言ってミシェルに目をやる。

「ミシェルさん、気を失ったみたいなの。怪我はない様子だけど」

そう告げるとシオンは「お前は?」と問うた。


「え?」

「お前はどうなんだ?」


まっすぐなシオンの紫の瞳がリルを見据える。

リルは少し戸惑いながら「私は平気」と答えた。


「動けるよ」


するとシオンはミシェルの肩を担ぎながら「なら逃げるぞ」と言った。


「で、でも、逃げるって言ったって、どうやって?出口はもう…」

塞がれていると言わなくてもシオンは分かったようだった。店の入り口は焼け落ちた天井のせいで塞がれ、厨房の勝手口は火元のため近づけない。

シオンは小さく舌打ちをするとリルに「少しの間、この人を頼めるか」と言った。

リルの返事も待たずにミシェルを託すとシオンは店の窓を右足で蹴り飛ばした。ガラスの砕け散る音が響いて、窓は簡単に壊れた。砕けた破片が炎の赤を映す。


「ここから出るぞ」


シオンは冷静さを保ったまま言った。


「えっ?で、でも!」


窓はリルの腰の高さよりも高い位置に設置されている。とても簡単には跨ぐことはできない。

「そこ以外に出口はない」

シオンの言葉は全くもって正しかった。最早これは、できる、できないの問題ではない。やらなければ死ぬ、そういうことだ。

「お前が先に行け。そしたら人を呼んでこい。このおばさんを助ける」


リルは簡単に頷くことはできなかった。


「でも、シオンを置いていくなんて…」


そんな決断をリルはすぐには下せなかった。