シオンは眉間に皺を寄せる。何を言っているか分からないと言いたそうだ。

他の客を見ても笑顔を浮かべてリュートの挨拶を聞いているだけで、誰もこの危機的状況には気づいていない。花の街なのに誰も気づいていないのかとリルはもどかしく思いながらも言った。

「改装祝いに赤い花束を贈ってはいけないの、シオンは知ってるでしょう？」

リルの言葉を聞いたシオンはすぐに気づいたようにハッとした表情を見せた。

慌ててダンの方を見ると、口の端だけ僅かに上げて微笑んでいたが、下を向いてにやりと笑った。

ぞくりとリルの背筋に悪寒が走る。


「今日は本当に＿＿＿」


リュートの挨拶が終わらないうちに、厨房の奥から爆発音が響き、同時に油のような臭いが鼻を掠めた。

リルはすぐに大声で叫んだ。


「火事です！早く逃げて！」


それと同時にまた爆発音が響いて、今度はカウンターのすぐ傍まで炎が迫ってきた。

店内はパニック状態になった。泣き叫ぶ者、慌てる者、皆が混乱している。

このままではいけない。リルは腹をくくり、叫ぶ。


「出口はこちらです！急いで！」


その言葉で皆が避難する。

逃必死の形相で皆が店外へ逃げた。リル達も店の外に出る。


「みんな、無事か！」


リュートは辺りを見渡しながら叫ぶ。


「あ、ああ…」

「なんとかな…」

皆服は煤けてしまったけれど、幸いなことに誰一人怪我はしていなかった。