けれどシオンは真っ直ぐにリュートを見つめている。

嬉しそうな笑みに満ちた店内の中で、シオンだけが真剣な顔をしていた。

なかなか笑わない人だとリルは思った。シオンと関わってあまり日は経っていないけれど、リルが彼の笑顔を見たのはたった二回だけだ。

こんな時にも笑顔を見せないなんて、と思ってその横顔を見つめていた。すると視線に気づいたのか、目だけでリルを見下ろして「何だ、さっきから」と不機嫌そうに問うた。

「何も」

リルは慌ててシオンから視線を逸らす。

リュートがもらった花束の数々を見て、リルはひとつ気づいたことがあった。

こんなにも多くの花束があるのに、赤が基調となっている花束はダンが持ってきたものしかないのだ。

赤は情熱、愛の色だ。花束にもよく使われるのに、不思議と赤い花束はない。

どうして、と思っているとふと昔の記憶が蘇った。


『赤は炎の色よ』


幼いリルに諭すように微笑む母の言葉が脳内に響く。



『だから新しいおうちには届けないの』



リルはハッと顔をあげた。


どうして忘れていたのだろう。

赤は、情熱、愛の色。だけどそれだけではない、炎の色。

そしてフラムルージュの花言葉【情熱】、【炎】。

それを改装祝いとして贈る意味。


数々の点が繋がると同時に、リルはシオンに言った。



「ここは危ない!」