「そんな怖い顔すんなよ」とダンは笑う。


「今日はめでたい日だ。そんな怖い顔してちゃ、この先お客が入ってこないぜ?」


それを聞いたリュートはさらに厳しい顔をした。

リルも同感だった。当然だ、こんなの皮肉以外の何者でもない。

リュートが不快に思っているのを全く気にしていない様子でダンは「改装祝いだ」と花束を差し出した。

その花びらは細く長く上に向かって咲き誇っていて、まるで炎のような真っ赤な花だ。美しいのだけどどこか妖しいような雰囲気も漂っている。


「改装、おめでとう」


これほどに嫌味なこともないだろう。

リュートは固い表情のまま「どうも」とそれを受け取った。注意深くダンの顔色を伺っている。

そんな中、「おい」とシオンはリルに声をかけた。

「あの花が何か分かるか?」

あの花、とはつまりダンがリュートに贈った真っ赤な花のことだ。リルは記憶を辿りながら頷いた。

「あれは、フラムルージュだよ。炎という意味で、炎のような花の色と花びらの形からそう名付けられた。花言葉は【情熱・炎】」

それを聞いたアーディは「流石はフルリエルのバイトだね。即答だ」と関心した。

「そんなすごいものじゃないよ」と苦笑いをしながら、だけどリルは胸騒ぎがしていた。

友人に花言葉が【情熱】の花を贈るのは何も不思議ではない。

それなのに、すとんと腑に落ちない。

何か思い出せないでいることがある気がしてならなかった。