どくんどくんと心臓はいつもより大きな音をたてて心拍する。

無事に王都に行けるか、あの人に出会えるか。不安で一杯だが、それと同じくらい楽しみにしている自分がいた。


まだ見ぬ大都会、王都パルテナ。

憧れ続けた、花の街。

あなたがいる街。


どんな街だろう。

どんな人達がいるだろう。


移り行く田舎の景色をリルはじっと見つめていた。


馬車にはリルの他に1人の男性とお母さんと小さな子どもが乗っていた。


「お嬢さん、王都まで行くのかい?」

空いている席に座ると、リルの向かい側に座っていた少し年老いた男性がそう尋ねた。

「いやあ、馬借との会話が聞こえちゃってねえ」

男は少し欠けた前歯を見せてニカッと笑った。

その笑顔に「そうなんです」とリルも微笑み返す。

「そうかい。そいつはいいねえ」

おじさんは腕を組んでうんうんと頷いた。

「王都は花の街。美しいお嬢さんにはきっとお似合いの街だ」

「美しいだなんて、そんなお世辞は…」

「いや、お世辞じゃないさ」

おじさんは身を乗り出すように言った。

「お嬢さんは美しい。一人旅なら色々と気をつけるんだよ」

「ありがとうございます」

気を付けろ、という言葉は家族からも言われた言葉。

心配する心が投げかけてくれる言葉だ。

それを見知らぬ娘にもくれたおじさんの優しさに感謝すると「やめとくれよ」とおじさんは照れたような顔をした。


「こんなおじさんに感謝なんていらないさ」


しばらくすると馬車は止まった。外を見ると、あっという間に隣町に来てしまったようだ。


「もう、次の町」

「話してるとあっという間だろう」

おじさんが言うのでリルは外の景色から目を離さずに頷いた。