リュートは怒鳴りつけた。

店の奥からは「すみません!」と大きな声で謝る男の子の声が聞こえてきた。

リュートは溜め息を吐くと、リル達の方を向いてハッと眉を下げて恥ずかしそうに笑った。

「申し訳ねえ、突然大声出しちまって。あいつもうちで働いてるけどずっとこの調子で、何度言ってもドジを踏んでよう、困ったやつだぜ」

店の奥の方を見てリュートは溜め息をまた吐いた。

「どこも従業員には苦労するのう」

オリバーの言葉が胸に突き刺さるリルだが、落ち込んでいる場合ではないと言い聞かせて前を向く。


「それで早速花を飾りたいんじゃが」

「ああ、よろしく頼む」


それからオリバーはリルに鋭い視線を寄越す。それが「花を運びこめ」という意味だと気づいたリルは、慌てて店先に置いていた花を運び込んだのだった。

店内は想像していたよりは広かった。調理場とカウンターが6席、4人がけのテーブルが6つ置かれている。きっとこの天幕街の中では広い店だろうとリルは思った。

店内は深いグレーが基調となっていて、落ち着いた雰囲気で心安まる、居心地のいい空間になっている。

そんなこの店のためにオリバーが選んだのは、目が冴えるような鮮やかな橙色のハイビスカスだった。

大きな花ぶりのハイビスカスはたしかに華やかだが、本来は夏に咲く花。季節が違うのではとリルは疑問に思った。

「何不思議そうな顔をしとるんじゃ」

そんなリルに気づいたオリバーは不機嫌そうに言う。