「ここフルリエルは王都一の歴史を持つ花屋だ。このオリバー・ラビガータが店主の、ここ花の街でも一番有名な花屋だ。

そんな店で働こうって言うんならそれなりの覚悟と実力があるんだろうな?」


オリバー・ラビガータ。その名前にリルは聞いたことがあったと思い出した。

王都に店を構えながら、わざわざアルトワールまで花を買い付けに来るという、とても目の肥えた花屋の店主がいると聞いたことがあったのだ。

その店主の名前が、オリバー・ラビガーター。

とんでもない花屋がいると話題にもなったその人物が、今目の前に。

リルはオリバーと彼の目をまっすぐ見て答えた。


「技量はあるか、分かりません。でも、私は花農家の家に育ちました。花については人より詳しいと思っています」

「ほう。お前さん、農家の出か。出身は?」

「アルトワールです」


その答えにオリバーの目が見開かれた。


「アルトワール! アルトワールの花農家の娘か、なるほど。しかし、いやいや、従業員の世話など面倒なことはしたくなどないわい」

「オリバーさん!」


なんとか食い下がろうとするリルを見かねた彼が「ならば」と助け船を出した。


「オリバー、頼んでいた花束はできているか?」

「あ?ああ、できてるぞ。ちっと待っておれ」


オリバーは突然の彼の申し出に驚きながらも店の奥から花束を取り出してきた。

花束はたくさんの花で彩られて見ているだけでも幸せな気持ちになるものだった。

どの花も凛と誇らしく咲いているようで、花束ひとつとっても王都は違うなとリルは感心せざるをえなかった。