昨日の夜、あのおじさん達に売り飛ばされそうになったとき、彼らが乗客達のかばんから財布を抜き取っていたのを見ていたのだった。

きっとその時にリルも財布を盗まれたに違いない。


「嬢ちゃん、どうした?」

「すいません、やっぱり買うのやめときます」

「なんだ、買わないのかい」

次は買っておくれよと溜め息を吐かれ、リルは頭を下げながら市場を後にした。


リルはもう一度あのベンチに戻って溜息を吐いた。


「どうしよう」


盗まれた財布にはそこまで多くはないが、リルが自分で一生懸命貯めてきたお金の全てを入れていた。

そして出かける前日には兄と妹からも少しずつ餞別としてもらっていたのだ。

少なくとも1か月はなんとか生きていけるだけのお金があったと思ったのだが、リルは一気に一文無しとなってしまった。

明日をどうやって生きればいいのか、リルは考えざるを得なかった。

見上げれば空はどんよりと雲で覆われ始めた。陽の光は灰色の雲に遮られ、気持ちまで暗くなってしまう。


「ここでじっとしていてもしかたがない!」


リルは立ち上がった。

お金がないのなら、働けばいい。ここは花の街、王都。きっとどこかに働き口はあるはずだ。

それから広場を出て、働き口を求めて王都を歩き回ることにした。