この12年、一度も忘れたことはない。このために生きてきたと言っても過言ではない。

リルは服の下に隠している胸元のペンダントを握りしめた。


「はい」


声は明瞭に響いた。

彼は少しの間振り返って、それからまた前を見据えて馬を走らせる。


少しずつ景色が変わってゆく。

少しずつ鮮やかになってゆく。

そのたびに王都に近づいてゆく。

あなたがいるところに、近づいてゆく。






王都はその周囲を大きな塀で囲まれており、その出入り口は衛兵によって守られている。

塀の外には大きな堀があり、そこに架けられた橋を渡らなければならない。

噂には聞いていたけれど、とても大きな堀だとリルは感嘆の声を漏らした。


今季節は花がいちばん綺麗に咲き誇る春。

春はたくさんの種類の花が咲くが、その中でも人気の高いエトメリアが堀をぐるりと囲むように植えられていて、その枝は重く垂れさがり、無数の薄桃色のかわいらしい花を咲かせている。

その花びらが風に舞っては堀の水面にそっと浮かび、水面に紋を作る。


「きれい…」

思わずリルが口に出すと、「ああ、そうか、お前は初めて見るんだな」と彼は思い出したように言った。


「お堀のエトメリア」


それはリルが生涯に一度は見たいと思っていた風景だった。