しかしいくら待ってもご主人様候補らしき人物は一向に現れない。

焦りだしたのは、おじさん二人組だった。

「おい、遅くねえか?約束の時間はとっくに過ぎてるぞ」

「んなことオレに聞かれてもよぉ。もうすぐ来るんじゃねえか?」

パンのおじさんは頭を掻く。

しかしそれからいくら経っても現れない。

「や、やっぱりよう、可笑しいんじゃねえか?いつも遅れてくるようなこったぁしねえだろ?」

「あ、ああ…で、でも、まあ、きっともうすぐ…」

ちょうどその時、テントの入り口の布がふわりと宙に舞った。

おじさん二人は待ち望んでいたと言わんばかりに顔を輝かせる。

どんな人がくるのか、これからどうなるのかという先の不安でリルはいっぱいになっていた。恐怖で心臓の音が大きく鳴る。

テントの外からふらりと男の影が見えた。

おじさん二人はにたりと笑って手を組んだ。

「待っていやしたぜ、旦那」

しかしその人は俯いたまま返事もしない。

可笑しいんじゃないかとおじさん二人も不審がり始めたときだった。


「ここか」


テントに顔を出した男の後ろに、若い男の姿があった。

その鋭い瞳に、見覚えがあった。


「誘拐、窃盗、人身売買未遂。これだけの罪を犯しておいて、逃げ切れると思うなよ」


それは昼にシャルクラーハでリルに声をかけてきたあの男性だった。