声をあげようとしても、それはただの呻き声にしかならない。

「無駄なこったぁ、やめなよ、嬢ちゃん」

憐れむような、馬鹿にするようなおじさんをキッと睨みつけて、それでも逃げだそうとリルは手足を動かす。

その間も馬車は走り続ける。

真っ暗闇の中ではここがどこかも、どこへ向かっているかも、リルには知る術はなかった。


暫くして馬車は止まった。

それから無理矢理体を引っ張られるように馬車から引きずり下ろされる。

地面に叩きつけられるようで痛いと叫び声をあげたかったが、その声もくぐもったものにしかならなかった。

下ろされた場所はテントの中のようだった。決して広くはない。なんとか形を保っているといった感じで、薄汚れておんぼろだ。おじさんがランプに火を灯して分かった。

リル達をこんなところに運びこんだ2人はニタニタと気味の悪い顔で私や他の乗客を見ている。

馬借のおじさんはリルや他の客の持っていた荷物やカバンの中を広げて財布や金目なものを堂々と盗んでいた。

けれどリルには目の前で行われる犯罪行為を黙って見ていることしかできない。


「もうすぐだからなぁ、嬢ちゃん」

人の財布からお金を抜き取りながら、馬借のおじさんが笑う。


「もうすぐ、お前らのご主人候補が来てくださるからよぉ」

安心して待ってなと、そう言うのだ。

誰が、そんなもの。リルは悔しさに奥歯を噛んだ。