温度が下がったその声に、その場にいた全員が押し黙った。

擁護されているリルでさえも、恐怖で口をつぐむ。息をすることさえ忘れてしまいそうなほどだった。


「この娘は先の王女毒殺未遂事件で、いち早く異変に気付き王女の命を救った者だ。我ら王族にとっては命の恩人。賞賛されて当然の人物だぞ」


大袈裟な言い方をする、とリルは思った。

自分がしたことは、贈られた花が可笑しいと言っただけで、後のことはシオンが助けてくれたというのに。

シオンの発言を聞いた役人達はどよめいていた。あちこちで、「この小娘が?」という声が聞こえてくる。

リルが王女を救ったことは、あまり多くの人には知られていなかったらしい。


「それは、娘に感謝せねばなりませんが、しかし、それだからと言って婚約をすることは認められませんぞ!」


冷や汗をかきながらも反対をする役人達に、シオンは呆れたように溜め息を吐いた。

リルも何か言わねばならないと思ったが、王子であるシオンでさえ聞き入れられないこの状況で何を言っても無駄だろうと思わざるを得なかった。

シオンが何を言おうとも、リルが何を言おうとも、この役人達は決してシオンとリルの婚約を認める気がないことは、嫌と言うほどリルには伝わってきていた。

その歯痒さにリルが拳を握りしめた時だった。


「こんなところで一体何を揉めているのかしら?物騒な声が遠くまで響いていますわよ」


凛としたその声でその場にいた全員が顔を向ける。

その声の主を見て、リルは目を見開いた。


「こんなところで騒ぎ立てるなど、品位の欠片もないのではなくて?」


この国唯一の姫君、リコリス王女が、側役のエリオットと共にシオン達の前に姿を現した。