シオンはその言葉に驚いて抱きしめていたリルを離した。

リルはシオンを見つめ、大粒の涙をぼろぼろ溢しながら胸の内をさらけ出す。


「シオンが、他の人と結ばれることになっても、これから顔を見ることができなくなっても、それでも。

ずっと、ずっと好きです」


できることなら想いが届いてほしいとリルは思っている。

けれどそれがどれだけ無謀な願いかも分かっていた。

気持ちを伝えることができただけでも幸せと思った方がいいだろう。

だからリルは何度も「好きです」と伝えた。涙で震える声で伝え続けた。

この先もう二度と会うことができなくなるかもしれないシオンに、自分の気持ちを全部伝えたかったのだ。

ぼろぼろ泣くリルの言葉をシオンは噛み締めるように聞いていた。

シオンは俯くと一つ呼吸をして、リルの名前を呼ぶ。そしてまっすぐにその目を見つめた。


「俺は今の今までずっとお前のことを知らなかった。アルトワールの田舎娘だとしか思っていなかった。

けど、いつからかお前に惹かれていた自分がいた。

記憶の中のアルトワールの娘と同じくらい、お前を想わない日はなかった」


それからシオンは片膝をつくと、腰に下げていた剣をリルとの間に置いた。


「これからの人生も、俺は戦うように生きるだろう。思慮様々な人に囲まれて、様々な事態が起こって、きっと生きる心地がしない日々が続く。

どんな状況だって、負けたりしない。どんなときでもこの国と国民を守り抜く。

けれど俺の隣には、リル、お前がいてほしい」


リルは目を見開いた。

シオンが顔を上げてその手を差し出す。



「この先を、共に生きてくれないか」