それに、王族という身分であるシオンが、そのことを忘れて他人と対等に関わることができた経験もシオンの中では特別なこと。

常に王族であることを前提として関わろうとする者達に囲まれて育ったシオンにとって、アルトワールでの出来事は何にも代えがたい大切な記憶なのだ。

あの思い出をそのままずっと持ち続けていたい。大切だからこそ壊したくない。そんな気持ちがシオンの中で大きく育っていた。



「願っていた。もう一度会いたいと、ずっと」



遠く離れたあなたを想う。

シオンの花言葉は、同じ名前をもつ彼そのものだ。

それはリルも同じ。

リルもシオンも、互いの名前も姿も知らないままだったが、それでも思い続けていた。


「シオンに伝えなきゃいけないことがある」


幼い頃にシオンと出会ったことから全てが始まった。

それを種と呼ぶのなら、それが花咲くときは、今。



「シオンが好きです」



幼い頃の約束をどうして今まで覚えていられたのか。

どうして約束を守って王都まで来たのか。

どうして、多くの人の助けを借りて、今王城まで会いに来たのか。

それは全て、きっと出会ったあの日からずっと、シオンに惹かれていたからだ。

その感情に恋だなんて名前がつくことも知らない時から、ずっと惹かれていたからだ。