呆然としたシオンは記憶を遡って思い出そうとしていた。

交わした言葉だけははっきり覚えているのに、顔も髪も思い出せない。

だけどなんとなく、あの少女の柔らかい雰囲気はリルに似ていると思った。


「本当に…?」


信じられない気持ちのシオンに、リルは涙を流しながら頷いた。


「王都で待ってる」


リルの声で響いたかつて自分が言った言葉に、シオンは目を見開く。

一言一句違わないその言葉は、リルがあの時の少女だと確信させるには充分すぎた。


「別れ際にシオンがそう言ったから、王都まで会いに来たんだよ」


「遅くなってしまったけど」と照れたように笑って涙を流すリルを、気がついたら抱きしめていた。

リルが差し出したシオンの花束ごと抱きしめていた。


「…会えるとは、思わなかった。あの時の約束なんて、忘れてしまっていても仕方ないと…」

「忘れるわけない。いつか必ずまた会おうって、約束したから」


シオンの目にも涙が滲んでいた。

幼い頃に交わした少女との再会など、叶わないことだと思って諦めていたのだ。


「会いたかった」


まるで心から滲むように出てきた言葉とともに、抱きしめる腕の力が強くなる。


シオンの王族という身分を使えば、アルトワールの娘一人見つけることは朝飯前だ。

けれどそれをしなかったのは、シオンの弱さでもあった。


もしあの日の娘を呼び寄せたとしても、あの約束を忘れているかもしれない。自分との出会いを忘れているかもしれない。

そう思うと怖くて、自分から会うことはできなかった。