花舞う街のリトル・クラウン

二人きりだと思って緊張するリルに、シオンは言った。


「すまない、突然腕を引っ張って」


部屋を抜け出したシオンの後を追っていた役人の存在に、シオンは気付いていた。

フルリエルの従業員であることがあまり知られていないリルと話をしているところを目撃されると、「そんなことより婚約だ」と役人に部屋に連れ戻される可能性が高かったのだ。

それを聞いたリルは「いいよ」と気にしていないことを伝えた。


「寧ろ嬉しいよ。こんな素敵なところに来られて」


嬉しそうな顔をするリルに、「それならいいが」とシオンは安堵の表情を見せた。


「そういえば、オリバーはどうした?フルリエルが来たと聞いて、てっきりオリバーが来たのだと思った」

「オリバーさんは店にいるよ」


するとシオンは「お前一人でよく来られたな」と少し驚いた表情をした。


「自分で言うのも何だが、今日俺に会うのは苦労しただろ?」


その問いにリルは「本当だよ」と笑った。


「でも、沢山の人が助けてくれた。今まで出会った人達みんなが助けてくれたの」


オリバーはシオンに会うための知恵と方法をくれた。

リュートとアーディはペンダントを直すお店を紹介してくれた。メアは壊れたペンダントを直してくれた。

エリオットは城の中にリルを招き入れて、シオンを連れて来てくれた。

今までの出会いがなかったら、今こうしてシオンに会えなかった。


「シオン、話がある」


全ては今までの積み重ね。

今までの全てが今を作っている。

ならば積み重なったその1番下にあるのは、全ての始まりは、シオンと出会いだ。