花舞う街のリトル・クラウン

少し考えた後、エリオットは「少しお待ちいただけますか」と言った。


「シオン様をお連れします」


リルは目見開いて、「よろしいのですか?」と尋ねた。

花を届けに来たとはいえ、シオンに時間がないのは確かなこと。

わざわざ平民であるリルのために時間をとることは至難の業であることはリルにもすぐに分かった。

けれどエリオットは「よいのです」と明るい笑顔で言い切った。


「王女を救ってくださったことに比べたら、こんなこと、どうってことありません。お安い御用というものですよ」


「ソファに腰掛けてお待ちください」と言い残してシオンがいる場所へと向かうエリオットに、リルは頭を下げた。


「ありがとうございます」


リルの目には涙が滲んでいた。

人の優しさに助けられてばかりだと、そのことに感謝していた。


リルと分かれたエリオットは、シオンがいる場所に向かいながら考えていた。

どれだけ忙しいとしても、あの優しく人想いのシオンのことだ、リルが来ていると告げればきっと抜け出してくれるに違いない。

しかしエリオットが頭を悩ませているのは、シオンの周りにいる城の役人達の存在だ。

今すぐにでも第一王子であるシオンが婚約することを望んでいる役人達は、今もなおクレーラ嬢との婚約についてシオンを説得し続けていることだろう。

どうやって彼らの目を欺くか、それが肝になるだろう。

やがてシオンがいる部屋に近づくと声が聞こえてきた。


「ですから王子!ご自身のためにも婚約されることが必要なのです!」

「必要ないと言っている!」


やはり、とエリオットは思った。

想像していた通り、城の役人達がシオンに婚約するよう説得している最中だった。