花舞う街のリトル・クラウン

するとエリオットは首を横に振って否定し、呼吸をひとつ置いて「たいしたことではないのです」と付け加えた。


「リルどのもご存知かもしれませんが、シオン様はこれから間もなく婚約なされるのです。婚約なされた後であれば、確実にお渡しできるかと。それまでお待ちください」


事情を知らないエリオットは優しくリルに微笑む。

エリオットの言動はリルを思った親切なものだ。

けれど今のリルには辛くて仕方がない。

エリオットが言うことはつまり、花を受け取る時間を取れないほど、シオンが婚約するまで時間がないということだ。


「リルどの?」


気がつくと足を止めていたリルに、エリオットはどうしたのかと声をかける。

リルは俯いて花束を抱える腕に力を入れると、「それではダメなんです」と呟くように言った。


「すぐに、届けなければならないんです。シオン様が婚約してしまった後では、ダメなんです」


いくら届くはずのない想いだとしても、婚約が決まった後にどんな顔をしてどんな言葉で気持ちを打ち明ければいいというのだろう。

それはあまりに辛すぎる。あまりに苦しすぎる。

リルにはとれない選択なのだ。


「リルどの…」

「少しだけでいい。たった少しでいい。シオン様に会うことはできませんか?」


真剣な顔をするリルに、エリオットは少し困惑した。

けれど命の恩人の願いだ、なんとか叶えたい。しかしシオンに時間があるだろうか。