「宅配時刻は正午じゃ。そろそろ準備をせんと間に合わんぞい」


オリバーに言われてはっと時計を見ると、針は正午の少し前を指している。王都の南まで行く時間も考えると、もう動き出さなければならない。


「お任せください!」


リルは返事をするとすぐにルミナリアの花を荷台に載せて、仕事にかかった。


オリバーに渡された地図と町の景色を交互に見比べながら荷台を引いて歩く。

王都で働くようになってから、あちこち宅配をしてきたけれど、南の方に来たのはこれが初めてだ。

メアが働くお店のある王都の東から南にかけてはずっと高級住宅街が広がっていて、特に南は景色が良いことと日当たりが良いために高貴な人々が別荘を持っていることが多いのだそうだ。

普段リルが住んでいる王都の北のあの雑多な雰囲気や街並みとは全く異なる。

場所柄によって雰囲気がここまで異なるとは、まったく王都は面白いと思いながらもリルは目的の場所に向かって進んだ。


やがて見つけたボスト邸は、高級住宅街である周りの建物と比べてもとても豪華だった。


白色を基調とした邸宅には、王都らしく様々な花が咲き乱れている。それも赤系統の花ばかりでこだわりが見て取れた。

思わず邸宅の絢爛さに圧倒されていると、近くにいたらしい警備のおじさんの咳払いが聞こえてきた。

怪しそうにリルを見ている彼に、リルは慌てて名乗った。


「花屋フルリエルの者です!クレーラ・ボスト様にルミナリアをお届けに参りました!」