王都にはもう行けないのだろうか。あの人には会えないのだろうか。

こんなところまで来て、アルトワールにも戻れない。どうやって戻ったらいいのかさえ分からない。

藁さえもつかめないような不安な気持ちがリルの胸をいっぱいにしていく。

「壊れちまった部品を交換すればすぐ動くようになる」とおじさんは不安がる乗客達に言った。

「今から急いで近くの町に行って部品を調達してくる。なのですんませんが、今日は車内で休んでくれ」

「明日には動く」とおじさんは繰り返し言う。けれど心配した男性客が「本当に明日には動くんだろうな」と問い詰め、馬借のおじさんは「約束しやす」ともう一度言った。

「なんでこんなことに」

「明日になっても動かなかったらどうしよう」

客の不安がる声が車内をいっぱいにしようとする。リルも不安を拭えなくて、ただその声を黙って聞いているしかなかった。


「まあ、こうなっちまったらしょうがねえな」


パンをくれたおじさんは大きな声でそう言った。


「明日には動くんだ、どのみち夜だからそんなには動かなかったさ」


その声に、不安な声はぴたりとやんで「確かに」「明日動くならそれでいいか」なんて声が聞こえてくるほどだった。

和やかな雰囲気になっていく車内をよそに、おじさんは「もう寝る」なんて言って目を瞑りだした。


「すごいですね」

リルはあまりの感激にいてもたってもいられなくなって思わずおじさんにそう耳打ちした。