長く続く塀にはところどころに塔のような建物がくっついていて、どうやら塔を登ることで塀の上へも行けるようだった。


「おい、何を立ち止まっている」


ふと見上げていた視線を前に向けると、リルの数メートル向こうでシオンがリルに呼びかけている。

どうやらシオンは塔の中に入ろうとしているらしかった。

シオンは王族であるためこの塔に入ろうが問題はないが、リルは一般市民だ。恐らくは軍が管轄しているのであろうこの塔の中に入ることは到底許されないだろう。

塔の見張りをしているらしき逞しい衛兵の二人組も、リルに鋭い目を向けている。


「無理だよ、私は…」


首を横に振るリルに溜め息を吐いたシオンは、立ちすくんだままのリルに近づくとその手首を掴んだ。

「え?」

驚きを隠せないリルに構うことなく、シオンはつかつかと塔の入り口へと歩いて行く。

そして入り口を守る衛兵の二人に「シオンだ。この者と入る」と言うと扉を押しのけた。

衛兵の二人組は突然現れたシオンとその行動に驚き、リルを怪しみながらも、第一王子であるシオンに口出しをすることもできず、頭を下げて道を開けるしかなかった。

頑丈な石造りの塔の中は、その中央に巨大ならせん階段が鎮座していた。

その階段は建物の最上部まで続いているようで、四角の窓から降り注ぐ光が建物内を照らしている。


「ここは…」


呆然と見上げるリルの声がぼうっと響く。