「それはこっちもよ」とメアは笑った。


「いつも王子様は忙しいんだもの。王子様だから仕方ないけど。なかなか会えなくてとても残念だったわよ、お・う・じ・さ・ま!」


にやりと笑いながら「王子様」と強調するメアに「言うな、それを」とシオンは不機嫌そうな顔をする。

しかしシオンの不愉快そうな顔を見ても嬉々として喜びの表情を浮かべているメアを見て呆然としていると、それに気づいたアーディが「いつもこうなんだよ」と笑った。


「メアはいつもシオンの反応を見て楽しんでいるんだ」


リルは顎が外れそうだった。

平民におちょくられる第一王子がいていいものなのか。

こんな姿を見たら国民は絶句するだろう。


「シオンは僕達みたいな平民と対等に関わることを望んでいるんだ」


普通ならあり得るはずのない光景ではあるが、リルは妙に納得していた。


「シオンらしいね」


王子様なのに城下の飲食店にふらりと現れ、平民と口喧嘩もする。

それは平民に媚びへつらうんじゃなくて、きっと自分の世界を広げたいから。

自分の国の民が今何を考えて、思って、食べて、話して、生きているのか。

きっとそれを知ることはシオンには何より大切なことなのだろう。


「おい、何をぼけっとしている」


シオンの声が聞こえて顔を向けると少し遠くにシオンとメアの姿が見えた。


「あ、待って!」


リルとアーディは慌てて2人を追いかける。

身分差なんて関係なく出会った2人の大切な友人の元へ。