花舞う街のリトル・クラウン

「こんな下賤な者の言葉に耳を貸すなど、王女としてあるまじき…」

「下賤な者、ですって?」


リルが反論するよりも先に、王女は大きな声で言った。

けれどそれは荒げるようなものではなかった。


「膨大な花の管理を一挙に引き受け、花はおろか花言葉に対する知識も豊富で、貴方をここまで追い詰める。

貴方はそんな人を下賤な者だなんて本当に思うのですか?」


その言葉で気づいたのか、バーキット伯爵は目を見開いた。

そして後ずさりをしながら顔を引きつらせる。


「…お…おのれ、小娘が!」


しかし表情を崩さないリルに苛立った伯爵は「名乗れ!」と叫ぶ。


「名乗れ、貴様、何者だ!」


伯爵の震える人差し指の先にはリルが凛とした表情で見つめている。

リルは表情を引きつらせるバーキット伯爵に言った。


「伯爵に名乗るほどの者ではありません。私はただの、花屋フルリエルのアルバイトです」


バーキット伯爵は目を見開いた。


「ふ、フルリエルだと!?」


それから伯爵はその場に膝から崩れ落ちた。


「これを聞いてもまだ下賤の者なんて言えて?」


いつの間にか王女はリルの隣まで来ていた。

誇らしげな表情をして、リルの肩に手をかける。


「王女様、まだここは危ないですよ」

「あら、危険がある方が面白いじゃないの」

「お客様の前だと言うのにそんなこと言ってていいんですか?」


全くおちゃめな王女だとリルが溜息を吐きかけたとき、声が聞こえた。

はっとしてバーキット伯爵を見ると、崩れてうつむいたまま何かをブツブツ呟いている。


「想定外だ…フルリエルのバイトなどいなければ…この計画は思い描いた通りだったというのに…!」