花舞う街のリトル・クラウン

伯爵は不気味に笑った。

それは身の毛がよだつような笑顔だった。


「お気遣いありがとうございます」


王女は変わらずに美しい笑顔のまま答えた。流石は王女だと思いながら、裏ではきっと嫌な気持ちになっているだろうとリルは心配していた。


「ぜひ王女にお召し上がりいただきたく思いましてね。どうです、王女。もうじき茶の時間です」


「よければご一緒しませんか」と伯爵は王女に近づいてそう持ちかける。


「お気持ちは嬉しいのですが、私にはまだ…」


まだまだ王女へ贈り物を届ける貴族が大勢いる。

王女はその方々の相手をせねばならないのだ。


「良いではないですか。少しばかし休息をされませんと。万が一にも王女が倒れられるようなことがあってはなりません」


そしてギロリと女中らを見る。


「王女に休息も取らせないなど、王城はこんなにもひどい扱いを王女にするわけがありません」


それは圧力に他ならない。


王女が休息をとるのだと、そのためにともに茶を飲むことを止めるなと、そう言われているようだった。


女中は顔を見合わせて苦しそうに眉間にしわを寄せる。


「リコリス様…」


エリオットも厳しい表情で王女を見つめている。

しかし王女は凛とした表情で「分かりましたわ」とそれを承諾した。


リルの心は依然すっきりしなかった。


何かが引っかかっている。


何が気になるのだろうと考え込んでいるうちに着々と茶の準備は進んでいった。

さすがは王城、あっという間に茶の準備は終わり、窓際に置かれた一人がけのソファに王女と伯爵が腰を掛ける。

紅茶の香りが漂ってくると、伯爵は自分が持ってきた菓子の箱を開けた。


中には王女が好きな薄桃色の可愛らしい菓子がちょこんと佇んでいる。