上品な素振りでリルに視線を向けると「あら、とてもよく似合っているわよ」と微笑む。


「こんな格好をするなど、聞いていませんが!」

「ああ、言ってはいませんでしたっけ」


王女はあっけらかんと答えた。リルは溜め息を吐いた。

リルはフルリエルで着ていたものではなく、城の女中の格好をさせられていた。こんな格好をすることなど聞かされてはいなかったため、リルは混乱していた。


「ですが、わたくしの付き人であるからには当然の格好をしていただきますわ」


当然の格好と言うのが、この女中の格好のことをさすらしい。


「さあさ、お客人が参られますわ。

よろしくお願いしますわよ」


王女がそう言ったとき、タイミングを見計らったように外にいる衛兵が高らかに言った。


「ディアス伯爵様が参られました」


それを聞いた王女はリルにウィンクする。

リルは溜息をひとつ吐くと気持ちを切り替えて仕事に当たることにした。


「王女様、この度はお誕生日誠におめでとうございます」

「ありがとうございます、レオナード伯爵様」

「王女の為にご用意したものでございます。つまらないものですがどうかお受け取りください」

「まあ、ありがとうございます」

そうやって誕生日を祝う言葉と贈り物を受け取る儀式を、もう何度繰り返したことだろう。

もう2時間は経っているような気がするが、王女の笑顔が一度も曇ったりしないところが流石一国の王女だ、とリルは思った。