「私、シオンのこと、今までと同じようにシオンって呼んでもいいかな?」


それは一種のかけだった。

もし駄目だと言われれば今までの関係はなくなってしまう。それどころかシオンが「無礼だ」と考えればすぐにでもリルは処罰されるだろう。

それでも言わずにはいられなかった。寂しそうなシオンのその表情をどうにかしてやりたかったのだ。


「シオン…?」


シオンは呆然としているようだった。まさかリルがそんなことを言い出すとは微塵も考えていなかったのだろう。

リルに名前を呼ばれるとシオンははっと顔を上げて、それからいつになく優しい顔で頷いた。


「…ああ、これからもよろしく頼む」


まるで心に花が咲くようだった。

今までに見たことのないような穏やかなシオンの笑顔を見たリルは自然と笑みがこぼれていた。



「失礼いたします」



城の使用人だろう人物がシオンとリルに声をかける。

2人はその声ではっと離れ、「何事だ」と冷静さを取り戻したシオンが尋ねる。


「リルどのに、伝言でございます」

「私に、ですか?」


シオンとリルは顔を見合わせる。まさかリルが名指しされるとは夢にも思っていなかったのだ。



「リコリス王女様より、自室へいらっしゃるように、と」


リルは目を見開いた。



「えっ!?」