店の壁にかかっている注文票をみるとびっしりと名前が書かれている。そして注文者の名前の後ろには伯爵だの侯爵だの、貴族だと示すものがいくつも書かれていた。


「貴族も御用達の花屋だったんですか…」


フルリエルのすごさを改めて知ったリルを見たオリバーは「なんじゃ、今頃分かったのか」と溜息を吐く。


「伊達に王都一の歴史を持つ花屋じゃないってことじゃ」


「分かったならさっさと手伝え。時間がないんじゃ」というオリバーの声にリルは返事をした。

今日の王族誕生日では、誕生日を迎える王女が王都中央にある王城で民に向かって挨拶をされるらしい。その時までに壁に書いてある注文全てを届けねばならないらしかった。

残されたタイムリミットはあと2時間。猫の手も借りたいとはまさにこのことだった。

ハイビスカス、ローズ、ルミナリア、リリー、プリムヴェール、イリス、アストロエトメリア。

色とりどりの花を次々に花束にしてゆく。

全ての花束ができあがる頃、ちょうど鐘の音が鳴り響いた。


「時間じゃ、いくぞ」


荷台に花束を隙間なく詰め込んで城下の街を歩く。

花に溢れている美しい街並みがいつになく華やかだった。

街の至る所で「王族誕生日」と銘打って店が新商品を出したり、突然踊り歌いだしたり、みなが誕生日を祝い楽しんでいる。

それは見ているだけでも楽しくて、リルの頬もついつい緩む。