「現にあの装飾品屋は最後に透明の宝石のついた首飾りを買わせようとしていただろう。値段は見たのか?300万グランだ。そんな大金、お前持っているのか?」

「さ、300万グラン!?」

絶句した。それはリルの家が1年間育てた花を売って得られる金額よりずっとずっと高い値段だった。きっと5年間寝る間を惜しんで働いたって稼げない。

当然そんな大金をリルは持っていなかった。


「買えないなら身を売るしかないと契約書にサインでもさせられただろうな」

「け、契約書、って…」

「奴隷になる、とか色々あるだろう」


涼しい顔をしてその男が言うことはとても衝撃的なことばかりだ。


「それに、悪人がいつも分かりやすく悪人らしい振る舞いをしているわけではない」

「そ、それはそうかもしれませんけど…」


もごもご口ごもっていると彼は呆れたように溜め息を吐いて「いいか、娘」と言葉を続けた。


「お前の身を守れるのはお前だけだ。自分の身を大事にしたいのなら、自分以外の全てに警戒しろ。自分に近づいてくるもの全てだ」

「あなたにも警戒しろと?」

するとその人は「ああ、そうだな」と鼻で笑った。嘲笑にも似た笑い方だった。