「うん、……知ってるよ」



この姿で会ってからまだ2日しか経ってないし当然だよね。

そう言った未来の晴樹はそれでも、と言葉を繋げた。



「少しでも実莉の役に立てるならって思ったんだ。今の方がきっと教えるのはうまいはずだし」



現役の晴樹より教えられるなんて、どうしてそんなことが言えるんだろう。

疑問は自然と浮かびあがるけど、それを彼に向ける気にはなれない。



だって、わからない。



私と晴樹を別れさせるのが目的だっていうなら私に優しくするなんておかしな話だ。

私たちを遠ざけるためにしては、勉強を教えるなんて生ぬるい。

もっと他に方法があるはずなのに、彼はただ同じ部屋にいて、私を見守っているだけ。



彼の目的は知ってるはずなのに、それだけじゃないような気がする。

だからこわくなる。



そして、私が未来の晴樹から教わりたくない理由は、それだけじゃない。



「……昔じゃないんだよ」

「え?」

「15歳の晴樹は、昔の晴樹じゃない。
今の、ただひとりの、晴樹だよ」



勝手に私の恋人を、私の誰より大切な人を、過去にしないで。



振り向くことはできず、掌に爪を立てた。

誰になにを言っているのか、私はどうしたいのか、自分で自分がわからなくて苦しい。

今にもあふれそうな心は荒れる海のようで、きっとそばにいる君を傷つける気がして必死で堪える。