智樹の言葉に涙が溢れる。
あれだけ不安だった心の中が、霞が晴れるように消えて無くなっていく。


私は馬鹿だ。


智樹はこんなにも私の事を想ってくれていたのに。
前のトラウマに縛られて、勝手に不安になって逃げてしまった。

勇気を出して聞いていたら、こんな事にはならなかったのかもしれない。
あの時、私にもっと勇気があったのなら。

ゴメンね、智樹。
こんな状況だから、そう言っているだけかもしれないけど。

今の私は、じゅうぶんに幸せだよ――……。


圭悟は何も言い返せず、睨んだまま立ち尽くしている。
そんな圭悟を見て、智樹はフッと笑った。


「てかさ、周り見てみな。こんな大勢人がいる前で女に手を上げて、どう見られているのか冷静になって見てみろよ」

その言葉に、圭悟はハッとした表情を浮かべ、瞳だけが左右に揺れた。

蔑んだような瞳で、圭悟を見る者。
ひそひそと何かを言いながら通り過ぎる者。

周りの人間もまた、圭悟に対して厳しい視線を向けていた。

その視線に耐えられなくなったのか、圭悟はその場を去ろうとする。
私達に背を向けたところで、智樹が圭悟に言い放った。

「二度とその面俺らの前に見せるなよ。もしまた京香に何かしようもんなら、その時はタダじゃ済まない。お前の会社にも迷惑が掛かるからな。よく覚えとけ」

その言葉を聞いたのか、聞いてないのか、それは分からない。

けれど圭悟は一切私達を振り返ることなく、人ごみの中に消えていった。