「……気持ち悪い。二度と顔を見せないで。最低だよ、圭悟」


そう冷静に言った瞬間、一気に圭悟の表情が変わり、鋭い目で私を睨んだ。



「……チッ、……こっちが下手に出りゃ、いい気になりやがって」


ハッと気付いた時には、圭悟の左手が上がっていた。
そして勢いよく私に向かって拳が近付く。

私は咄嗟に目を瞑った。


――ヤバい!殴られる!!



そう思った瞬間、グイッと私の身体が後ろに引っ張られた。

当たるもののない圭悟の拳は、華麗に空中を切った。



一瞬、時が止まったような感覚。



その後すぐに、怒りの篭った声が背後から聞こえた。





「女に手を上げるなんて、本当、最低な奴だな」






――恐る恐る目を開けた。

目の前の圭悟は、鋭い視線を私の後ろにいる人間に向けている。


その声には聞き覚えがあった。

……ううん、聞き覚えじゃない、いつも聞き慣れた声。



その人は、私を元気付けて、安心させてくれて、傍にいてくれる人だ。