こんな時に会うなんて、タイミングが悪すぎる。
智樹との事で悩んでいなければ、もう少し強く出て逃げられた。

圭悟がああ言ったとしても、無理にでも引き離して逃げる事が出来たはずなのに。

『私はもう前を向いて歩いているから邪魔しないで』って、そう強く言えるはずなのに。


――今の私には、言えない。


言ってしまったら、苦しくなって泣いてしまうから。
圭悟だけには、もう涙を見せたくないから。


きっと涙を見せたら、圭悟は私を捕まえるまで追いかけてくるだろう。
捕まえて、その腕の中に私を包んで、優しい言葉を掛けてくるに違いない。


そうなった時がとても怖い。
今の私はとても弱いから。


圭悟に弱いところを見せてしまうのだけは、どうしても避けたかった。

だから、


「……逃げないから、離して」

だから、そう言うしかなかった。


圭悟は私の言葉を聞き、安心したのか少し表情を緩める。
そして腕を掴んでいた力が徐々に弱くなり、離れた。


「ずっと、会いたかったんだ。メールも電話も拒否されて、凄く辛かった」