……苦しい。
息が出来ないくらい苦しい。

思い出したくもないのに、圭悟と智樹の顔が重なる。
あの部屋での光景がフラッシュバックする。


違う、智樹は圭悟じゃない。
別に智樹は元カノと何かしていた訳じゃないもの。



……けれど、元カノにああ言われて智樹は?


あんなに元カノが懇願していたのに、何も話さなかった。
肯定も否定もせず、ただじっと元カノを見下ろしていただけだった。


何も言えないって、それはもしかして、気持ちが揺らいでた?


……仕方ないか。

何年も付き合っていて、結婚を考えていた人だもんね。
確かに浮気は許せないだろうけど、でも、ああまで懇願されたら、揺らいじゃうよね。


後ろ姿しか見えなかったけど、後ろ姿だけでも綺麗な人だって分かるくらいだし。


それに比べて私はそんなに美人でもない。
加えてバツイチだし、この通り仕事だって派遣だし、勝ち目なんてどこにもない。


でも、でも。

私に言ってくれたのに。
好きだって、言ってくれたのに。

智樹のことを信じたい。
けど、前のトラウマがある私には信じきれない。


涙は止めどなく流れ出た。
声だけは出さないように我慢したけれど、無理だった。


どうして上手くいかないんだろう。
次こそはきっとって、そう思えてたのに。


智樹も圭悟と同じで変わっちゃうの?

好きだって、幸せにしてくれるって言ってくれたのに、実はまだ元カノに未練があったの?



――もう、切ないよ。
立ち上がれないよ。


こんなことなら、智樹と付き合わなきゃよかった。
あの時、傍にいてなんて言わなきゃよかった。


そうすればこんなに苦しい思いをしなくて済んだのに。



そうすれば……!。