10時を回ったくらいに智樹は帰ってきた。
ガチャリと玄関のドアが開く音が聞こえ、私は玄関まで行って智樹を出迎える。

そのままリビングへと行きながら話をしている中で、沙織たちの飲みに行く話をした。


「……で、久しぶりに沙織から電話が来てさ、飲みに行く事になったんだけど、いいかな?」

「おお、沙織ちゃんたちか。本当に久しぶりだね、いいじゃん行っておいでよ」

智樹はスーツのジャケットをハンガーに掛けながら、快く言ってくれる。
私は智樹の夕飯の準備をしつつ、話を続けた。


「ありがと!智樹はその日練習だよね?終わったら来る?」

「あー……。その日、練習終わったら合流したいんだけど、その後ちょっと俺も用事があって、帰り遅くなるかも。ゴメン、本当はひとりで帰らせるの不安なんだけど」

「え?あ、そうなの?大丈夫だよ、タクシーで帰るからさ!それより用事って珍しいね、楽団の打ち合わせ?」


「まあ、うん。……ちょっとね」

智樹は何故か言葉を濁らせて返した。

その返事に妙に違和感を感じて、振り向いて智樹の顔を見る。
智樹は、何故か冴えない表情をしていた。


「どうしたの?」

「ん?何が?」

「顔色がなんかおかしいよ?」

つい気になって聞くと、智樹はネクタイに手を掛けながら目線を下にして、考えるような表情をした。
そして少しの沈黙のあと、こう答える。


「……そう?ちょっと疲れているからかも。ここんとこ休む暇もなく忙しいからね」

「そう。それならいいんだけど……」

「先に風呂入って来るよ」


智樹はそう言うと、そそくさと風呂場へと消えてしまった。