「私はあなたと話すことなんて、なにもない。謝罪も聞きたくない。あの時ですべてが終わってるの。あなたとここで会ったのは、運命なんかじゃない。ただの偶然よ」

こんなものを、運命だと感じてなんて言って欲しくなかった。
これが運命だと言うのなら、ないほうがマシだ。

「でも、謝らせてください。でないと、いつまでも後悔ばかりが残ってしまって」

「後悔?……ハッ、笑わせる。後悔するくらいなら、最初っから結婚している相手とあんなことしなきゃ良かったのに。やることやっといて、なに言ってんの?」

呆れて笑いしか出ない。
女は私の言葉に、唇をギュッと噛んで目線を下に逸らした。

動くなら今だ。

私は立ち尽くす女を残し、小走りに去ろうとする。


「――待って!」

女の一際大きな声に、ビクリと肩が跳ね、思わず足が止まる。
周りにいる人も驚いて、こちらへ視線を向けた。

でも私は振り向かなかった。
背中で女の気配を感じながら、周りの視線に耐えた。

「なら、私はそれでもいい。一生このままで構わない。でも、あの人には、せめて一回だけ、一回だけでも会ってやってください。どうしても謝りたいんだって、ずっと塞ぎ込んでいて……だから」

もう聞きたくない、と私は小走りで駅の中に逃げた。

自動改札機を通り、目的のホームへ走る。

そんなに長い距離でもない。
なのに、ホームに着くころには、自分でも驚くぐらい息が上がっていた。