正直その顔は、部活での演奏会や大会の本番に見せる顔で、私からしたらさほど珍しいものではない。

でも、滅多に見せるものではなく、ここぞという時に見せるもので、普段の仕事中はもう少し朗らかな顔をしていたはず。

その表情は、この会社に入って初めて飲みに誘われた、あの時以来。

余程重要な仕事を任されているのかもしれないが、またその表情を見るとは思わなかった。


「ね?最近、吉岡君の表情が凄く変わったと思うの。とってもいい顔してるわ」

と、河合さんが言う。
私は、それに小さく頷いて、そしてまた仕事に戻った。


私のお陰……って、なんか照れる。

特に何もしたわけじゃないし、むしろ私が色々として貰ってるくらいなのに。


……でも、よかった。

私と噂されたことで、智樹に悪い影響が出なくて安心した。

あんなに頑張ってくれるのは、私との将来を真剣に考えているからなんだと思うと、幸せで涙が出そうになる。


私も智樹のために、頑張らなきゃ。
バツのついた女を貰って失敗した、なんて言われないように。


今でこそ、離婚なんてそんな珍しいものじゃないけど。
でも、やっぱりバツイチって肩書は、ずっと自分に付きまとうものだから。



智樹も、そして私自身も。

これからの未来が明るいものになるために、私ももっと努力しなきゃならないんだ。