「……で?京香ちゃんはそのメールになにか返したの?」

先輩がカップを置くと同時に、そう私に聞いた。
私はそのまま上りゆく湯気を見つめながら、答える。

「返すわけ、ないじゃないですか。……消しました。そして連絡先を全て拒否して。名前を見るのも、もうこりごりなんです」


それを聞いて、先輩は小さく「そう」と言って息を吐く。
そしてそのまま、私たちの間に少しの沈黙が流れた。


ピアノとチェロの悲しげな曲が静かに流れる。

別に悲しい訳でもないのに、胸が苦しくなって涙が溢れた。


多分それは、不安からくる涙なのだろう。


自分の心が不安定で、ちょっとしたことでもすぐに乱れてしまう自分の弱さがとても怖くて。

本当は自分自身の力で立ち直らなければならないのは分かってる。

……だけど。

誰かに支えて欲しい。
……先輩に守って欲しい。


そんな想いがどっと溢れていって。


「……先輩」

「ん?」

「迷惑なのは分かっています。でも、私が立ち直るまででいいんです。その時まで、私、このまま先輩に甘えてもいいですか?」


思わずそう言ってしまった。

ひとりで自分自身を支えていくのが辛くて、先輩に迷惑を掛けることはじゅうぶん分かっているけど、どうしても心の中で留めておくことができなかった。


私は弱い。

先輩と再会してから今まで沢山の力を与えてくれたのに、私はそれでも立ち直ることができない。
ちょっとしたことでのフラッシュバックが、私を苦しめる。

それでも先輩と会えば、こうやって先輩と話せば、その気持ちが楽になる。

だから、もう少しこのまま先輩に甘えたくて、正直に言ってしまった。



……断られたらどうしよう。

その恐怖から、先輩の顔が見られない。

……どうか断らないで。

そう願いながら、先輩の返答を待った。