先輩のその言葉を聞いて、何も言えなくなった。

辺りは楽しそうな笑い声が響く中、私たちの間だけは沈黙が流れる。


まさか先輩が浮気されてたなんて。
どうしてそんな……。


「彼女にプロポーズしようと、その時一緒に渡す婚約指輪を探して街を歩いていた時、たまたま見てしまったんだ。彼女が他の男と腕を組んで歩いている姿をさ。普段見せないような明るい笑顔で男と話ながら歩いているのを見て、一気に地獄に落とされたような気分になったよ」

「そんなタイミングの時に……」

「まあ、京香ちゃんほど修羅場ではなかったけど、でも、結婚まで考えていた相手だったからものすごく落ち込んだよ。別れ話をするのも正直辛かった。本当は別れたくなかった。……けど、あの彼女が男に見せた笑顔がどうしても忘れられなくてね。それで仕方なく」

「別れたのはいつ頃だったんですか?」

「半年くらい前かな」

先輩の気持ちは痛いくらいに分かった。

自分の知らないところで、好きな人に裏切られるほど辛いものはない。
好きなのに、許せない自分がそこにはいて。

胸の辺りが苦しくなって、ギュッと胸の部分の服を握りしめた。


「だからこそさ、京香ちゃんには優しい言葉をかけてやらなきゃいけなかったのに、あの時、惨めなんて言ってゴメンな。自分も同じだったから、自分だけじゃなかったって変に舞い上がってしまって、ついあんな風に言ってしまった」


「い、いえ……、別にそれはもう気にしてませんから。それよりも先輩はもう大丈夫なんですか?」


「うん。落ち込んでいても俺には音楽があったから。ひとりじゃない場所があったから助かったかな。それに、徐々に立ち直りつつある時に京香ちゃんに再会して……。お陰で吹っ切れることができたんだよ」

そう言って先輩は笑った。