そんな時、注文したコーヒーが運ばれる。

ざわついた気持ちを落ち着けようと、俺は自分の前にコーヒーが置かれるなり、そのままストレートで一口飲んだ。

熱い塊が食道を通っていくのが分かった。
胃に落ちていくのと同時に、少し冷静になる。

ふう、と一息付き、カップをテーブルに置きつつ話を続けた。

「……で?京香ちゃんはそのメールになにか返したの?」

「返すわけ、ないじゃないですか。……消しました。そして連絡先を全て拒否して。名前を見るのも、もうこりごりなんです」

京香は顔を歪ませて話す。
瞳は潤み、今にも泣きだしそうだ。

ドクン、と心臓が大きく脈を打つ。


――守りたい。


弱々しい彼女を、俺の手で守ってやりたい。

こんな苦しい表情なんて、もう絶対にさせない。
俺が京香を幸せにしてやりたい。


そんな思いに駆られ、言葉に出そうとした時、京香の方から口を開く。


「……先輩」

「ん?」

「私が立ち直るまででいいんです。その時まで、私、このまま先輩に甘えてもいいですか?」



――甘えてもいいですか?――

まさか京香からそんな言葉を言うとは思ってもいなかった。
俺の心臓は、なお激しさを増す。

それは、願ったり叶ったりだ。

どんどん俺に甘えてくれればいい。

立ち直るまで、なんてそんな期限はいらない。
このままずっと俺に甘えてくれたっていいんだ。


俺は俯く京香に声を掛ける。
京香の言葉が嬉しくて、自然と笑みが出てしまった。

「迷惑なんて思わない。むしろこうやって俺が一緒にいることで、京香ちゃんが立ち直るのなら、いつでもどこでも俺が傍にいてあげるよ。だから心配しなくていい、京香ちゃんは安心して俺に甘えていいんだ」

「……先輩……」

「付き合おう、俺たち。そうすれば君も気兼ねなく俺に甘えられるだろう?」