「――久し振り」

意を決して声をかけたのは、昼休みに入ってから。
トイレから出てきたところを見つけて、後ろから声をかけた。


振り返って俺を見つめるその顔は、昔となんら変わっていない。
ホッとしたのも束の間、彼女は俺が誰なのか気付いていないようだった。

しどろもどろと答える京香に少しムッとしてしまう。


「……もしかして覚えてないの?」

つい不満げな感情の篭った言葉が出てしまう。

京香はその言葉に対してハッキリとは答えない。
やっぱり俺が誰なのか思い出せないでいるようだ。

その事に少しショックを覚える。

なんだ、覚えていたのは俺だけだったのか。
彼女の中では俺のことはちょっとも記憶に残っていないのか。


「ごめんなさい。頑張って思い出そうとしているんですが、思い出せないんです。あなたとはどこかで会ったことがあるような気はしているんですが……」


……決定打。

思わず舌打ちをしてしまった。

ビクッと身体を跳ねらせ強張る京香に、仕方なく名前を告げる。


「……ともき」

「え?」


「吉岡智樹。この名前でも思い出せない?」


名前を告げても思い出せなかったら……、と不安になりながらも、俺は京香に名前を言った。

京香は名前を聞くなり、眉間にあった皺が徐々に消え、ぱあっと晴れた顔に変化する。


「……吉岡先輩」